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氣と催眠は同じなのか!?

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

手を触れず人が飛ぶ。あるいは手をかざすだけで倒れてしまう。

日本武術、中国武術を問わず、多くの読者がこんな光景を一度は目にしたことがあるはずだ。そしてその時、こう思わなかっただろうか?

「これって催眠術の一種じゃないの?」と。

確かに現象としては似ている。ほとんどの場合、飛んだり倒れたりするのは術者の弟子や関係者であり、意識、無意識を問わず両者の間に何らかの関係が存在している。無論、飛んで行く人間はそこに何かしらの現象、本特集で言うところの″氣″を感じているのだろうが、第三者的に見る限りは催眠術で操られているのと変わらない。

もちろん催眠術と氣か同じだとは思わないまでも、そこに何かしらの類似点があるのではないか?と考えるのもまた自然だろう。

“氣と催眠術は関係あるのか?”

今回の特集にあたり、そんな長年の疑問を催眠カウンセラーの吉田かずお氏にぶつけてみた。

吉田かずお氏。ドンキーカルテットをご存知の、ある程度のお年の方には”ジャイアント吉田”のお名前でご紹介した方がピンとくるかもしれない。

また熱心な秘伝読者であれば数年前の本誌太気拳特集(04年12月号)でご登場頂いた氏の姿をおぼえているだろう。吉田氏は柔道を講道館・三船久蔵師範の元で学び、太気拳の創始者・滞井健一師の草創期の弟子である武術家でもあるのだ。その際にも多少ご紹介したのだが、吉田氏は独学で催眠術を修得し、現在催眠カウンセラーとして活躍されている。

では催眠術はもとより、武術にも造詣の深い吉田氏は、氣と催眠の関係をどのように考えているのだろうか?

すると吉田氏は、「凄く関係ありますね。何を以て氣とするのか難しいのですが、氣と呼ばれるもののある部分に関しては催眠でもほとんど同じ事ができます。だから催眠を知ることで氣も進むし、武術は飛躍的に進歩しますよ」とお答え下さった。

仮に催眠と氣に同じ部分があるなら、その共通項を見ることで、氣のあり方も見えるのではないか?

では翻って催眠術とは何だろう?

催眠という言葉自体は既に一般的ではあるが、現実にその存在を知る機会と言えば、時折テレビで見る程度というのが実情だろう。考えてみれば知っているようで知らない催眠の世界。まずは催眠の世界へ分け入り、そこからさらに氣の世界に踏み込んでみたい。

驚愕の催眠世界

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

「まず催眠術は大きく、他者催眠と自己催眠の二つに分かれます。一般的にテレビなどで見ることの多いのは他者催眠、催眠術師によってかけられるスタイルです。難しさということで言えば他者催眠の方が簡単。自己催眠は非常に難しいです」と吉田氏は言う。

自分をコントロールする自己催眠に比べ、他者をコントロールする・他者にコントロールされる他者催眠の方が簡単というのは意外なようだが、これには理由がある。

「催眠というのは意識を誘導する作業です。一見自分の意識をコントロールする方が簡単そうですが、自由な意識に自分で催眠の指標を作り維持するのは難しい。他者催眠の場合は外から指標を与えられて導かれるので意識をコントロールしやすい訳です」

なるほど、丁度”無心になろう”といくら頑張ってもなれないのと同じ感覚と言えるだろう。自分の意識ほどコントロールし難いものは無いのかもしれない。

「催眠で重要なのはラポール作りです。簡単に言えば催眠者と被験者の間の違和感を無くしてリラックスさせることですね。このラポール作りができれば催眠は70パーセント成功したと言えるでしょう」

しかし全ての人とそう都合良く信頼関係が築けるとは思えない。なかには催眠術に対して懐疑的・否定的な人もいるだろう。そうした人を相手にした場合、催眠術は無効なのだろうか?

「確かに誰でも間違えなくとは言えません。ただ私の場合元々武術への興味から催眠に入った人間ですから、究極的には敵対する人間に瞬間的に催眠をかけるのが目標なんです。ですから私の催眠は相手を選ばず、かなりの確率でかけられます」と吉田氏は言い切った。

流石は武術家・吉田氏ならではの発想だ。しかし具体的には一体どのように行うのだろうか?

「一番基本的なことは誰もが持つ無意識を意識に変えることです。一番具体的な例を上げるなら呼吸ですね。普段無意識で行っている呼吸を意識させて、息を吐きながら肩、腕、首、目と部分ごとに順番に身体の力を抜かせてリラックスさせる。大切なのはリラックスさせることです」

今回の取材にあたり編集部で3人の被験者を用意し、実際に吉田氏が催眠をかける場面を目の当たりにしたのだが、終始氏が3人をリラックスさせるべく、穏やかな口調と態度で3人に話しかけていたのが印象的だ。

特に面白かったのは被験者に催眠をかける際に、必ず被験者の背後から声をかけつつ、被験者の身体に手を触れ軽く動きを誘導する場面だった。

呼吸に意識を集中し、力を抜いているところに物理的な接触で微妙な揺らぎをつくり、肉体的な不安定感を作りつつ、言葉では「リラックスして、凄く気持ちがよい」と安定感を与えるのだ。この吉田氏の声が横で聞いていても、何か深いところに届く安心感を与える声なのだ。つまり、被験者にとっては肉体的なアンバランスを吉田氏の言葉で補う状態が出来上がっている訳だ。

後で被験者の女性に話を聞くと、催眠術をかけられている間は、目は開いていても焦点は合わず、吉田氏の声しか聞こえない状態だったという。ただ理性自体は喪失したわけではなく自分でも”あれ、(催眠術に)かかっているのかな?”という想いはあったという。彼女は吉田氏の指示通り後ろに倒れたのだがこの時も”あ、倒れちゃった”と想いつつも”まあいいか”と、積極的に抵抗する気が無くなっていたという。

一見すると馴れ合いの”ヤラセ”のようだが、同じく催眠をかけられた男性の被験者に話を聞いても、「不思議に抵抗する気がなくなって、(吉田氏の言葉に)”ああ、そうなんだ”と思ってしまう」と話しており、被験者の抵抗感自体を失わせてしまい、一種合意の主従関係をつくってしまうのが催眠状態と言えるようだ。

また催眠の影響は単に行動的な範囲に留まらず、感覚的な部分も含んでいる。それが明確になったのは被験者にレモンを食べさせた場面だ。吉田氏に「もの凄く甘い」という催眠を入れられた女性の被験者は輪切りのレモンを饗り、「本当に甘い!」と驚きの声を上げたのだ。

詳しくは後述の催眠体験ルポ(34~35頁)をお読みいただきたいが、単なる思いこみではなく、催眠で五感の一つ、味覚が変化したことが分かるだろう。

逆に催眠術で一番かかりにくいのは、疑り深い人ではなく、関心がない人だという。

「疑り深い人はこちらの言葉を聞いて何かを考えたり意識したりする訳で言葉が入りますが、無関心な人は言葉が入っていかない。そうなると難しいですね」

ここまででごく初歩的な催眠のメカニズムは理解することができた。端的に言えば、催眠とは心と意識に直接働きかけることで感覚を含む身体をコントロールすることと言える。

では氣はどうだろうか?

氣も催眠も同じ 意識を通じ身体をコントロールする

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

氣もまた心と意識へ働きかけることで、身体をコントロールするという点では催眠と同じだ。

例えば氣功では施術者が出した氣を被験者が意識し、身体に影響を与える。また効果は違うが冒頭に例として出した触れずに相手を吹き飛ばすのも、意識へ働きかけている点では同じで、どちらも催眠で言うところの他者催眠に近い。

また中国拳法の站椿やヨーガなどで”全身に気を巡らせる感覚を開く”と指導されるが、これもまた意識を通じて自分の身体をコントロールする作業であり、こちらは自己催眠と言えるだろう。

いずれにしろ氣をコントロールするという作業自体が、自己・他者を問わず意識を通じて身体に問い掛ける作業であり、その点では催眠のプロセスとほぼ同じだ。吉田氏は、「氣の全てが催眠だとは言いませんが、心と意識を通じて身体に働きかけるということに関しては催眠と氣は同じだと思っています。特にプロセス・技術という点では、催眠のテクニックを学ぶことで、意識で身体をコントロールする”氣”を通常の何倍も早くマスターすることができます」と言う。

それでは具体的に氣と催眠に共通する要素はなんだろうか?

「イメージです。氣でも催眠でも”どれだけリアルにイメージできるか”それが一番大事です(吉田氏)」

確かに多くの武術が行う”氣”の養成方法も、様々なイメージを持つことで行われる。例えば太極拳では”両手で氣の玉を転がすように”といったイメージを用いる稽古が行われているし、吉田氏が実践する太気拳なども同様だ。

「太気拳で氣を養う立禅は”巨木を抱える”というイメージで行いますが、これはほとんど自己催眠ですよ。ただ先程”リアルに”と言いましたが、これは別に細部まで思い浮かべるというのではなく、本当に心の底に”それがある”と入れてしまうのが重要なんです。心に入ってしまえば、考えなくても本当に感じることができる。自分の抱える太い古木や、葉っぱを揺らす風の匂いを感覚を含めて本当に感じることができるんです。そして催眠の技術というのは瞬間的に心の奥にそのイメージを入れてしまうことなんです。これが催眠でいうところの自己催眠ですね。これができると氣の習得は凄く進みますよ」

では自己催眠を我々が行う方法は無いのだろうか?

「あります。まず全ての基本となるのが”リラックス”で、これは一番大事なんです。どんな時でもサッとリラックスできる。それができれば武術はもちろん生活全部が変わってきますよ」

今回は、特別に吉田氏にご紹介いただいたリラックスするための自己催眠方法を特別に公開、別項にまとめた。興味のある方は是非お試し頂きたい。

「私は武道に催眠は必要不可欠だと思っています。よく”目分を信じて”と聞きますがそれでは弱い。”ある”と本当に感じることで自分も変わるし、それが他の人にも影響を与える。例えば宮本武蔵は自己催眠の天才だったと思いますね。どんな場面でも自分が勝つことを疑わずにいられたから、リラックスして落ち着いて闘え、それが相手にとって気圧された感覚、”氣”の存在として伝わったのだと思います(吉田氏)」

“氣”というと、何か相手をコントロールするイメーージがあるが、何よりも先にまず自分の心をコントロールすることが、気を自分のものにする第一歩なのだろう。そして催眠には、確かにその為の鍵があるのだ。

催眠が呼び覚ます力

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

催眠術ってなに?

「催眠術の体験ルポをお願いします」と編集氏に言われたときに、正直不安になった。
まず催眠術と聞いてもテレビで見るくらいであまりピンとは来ない。それに筆者白身の疑り深い性格上”催眠術にはかからないのだろう″と思っていたからだ。ところが編集氏は、「大いに結構。できるだけ自然に、ヤラセなしでお願いします」と言ってくる。

そうなると頭をもたげてくるのは好奇心だ。一体催眠術とは何だろう?本当に自分にかかるのだろうか?いつもの秘伝の取材とは違った気分で当日を迎えた。

リラックスから始まった催眠

3月某日。今回の体験会には自分の他に編集部員のM女史とH氏の3人が参加し行われた。もちろん全員催眠術は初めてというメンバーだ。

体験に先立ちまずは吉田氏から簡単な催眠術のレクチャーが行われた。

「スムースに催眠術にかかるにはとにかくリラックスをすることが必要」との説明だが、これが難しい。いざとなると”何をされるんだろう”という恐怖から緊張してしまう。

そんな様子の我々に吉田氏は終始くつろいだ感じで話しながら、何気なくM女史を壁に向かって立たせた。その流れが「さあ、それではやりましょう」という感じではなく、ごく自然な雰囲気だったのが印象的だ。

運動支配と感覚支配

M女史との簡単なやり取りの後、次に筆者が呼ばれた。吉田氏は壁に向かって立った筆者の後ろに立ち、肩に手を置き軽く揺らしながら「力が抜けていくよ」と声をかけてくる。自分白身では半信半疑だったが、「後ろに倒れちゃいなさい、大丈夫だから」という言葉に従い”じゃあ、倒れてみようかな”という軽い気持ちでゆっくり倒れてみた。これでいいのだろうか? この時点で自分が催眠術にかかっているのかかかっていないのか、まったくわからない。

ところが後でこの時の様子を聞くと、筆者はゆっくり倒れたつもりだったのだが、かなりの勢いで倒れたようで「頭を打つのではないか?」と編集氏は心配したと言う。そう聞かされても信じられない。本人にはまったくその気がなかったのだ。

次に座った状態で同じことを行う。すると今度は立った状態では反応が鈍かったM女史が、いきなりバタンと倒れこんだ。「わっ、びっくりした」と思わず声を上げるM女史。彼女は途中から身体の力が抜け、目の焦点が合わなくなっているのが自覚できたという。幾つかのやり取りのあと、起き上がったM女史は、「凄くすっきりしています」と晴れやかな表情で笑う。吉田氏によると催眠にかかった状態は身体がリラックスするため、肩こりなどがほぐれるという。

次に吉田氏はアルミ缶の蓋を机の上に置き、「絶対に持ち上がらない」と声をかけた。半信半疑の表情で蓋に手を掛けるM女史だが、「本当に持ち上がらない!」と驚きの声を上げる。

“本当かな?”と筆者も試したのだが、確かに待ち上がらない。これが不思議な感覚で”持ち上げよう″と思っている自分と、”持ち上がらないんだな”と納得している自分がいるのだ。

氏によれば、これが催眠の初歩的な運動支配だという。

次に輪切りにしたレモンを目の前にして「これは酸っぱいということを忘れて、食べたときにものすごく甘く感じますよ」と暗示をかけてもらう。これにいちばん顕著に反応したのが、やはりM女史だった。「本当に甘い!」と驚きの声をあげる。催眠によって味覚という感覚すら変えられてしまったのだ。

潜在力が解放される!?

特に驚いたのがM女史と行った腕相撲だ。まず最初は普通に対戦、当然これは楽勝で一気に持ってゆける。次に古田氏が彼女に力が入るように暗示をかけて再試合。「さあ、どうだろう?」と手を握った瞬間から″違う″。実際に始めてみると一気に持ってゆけた先程とは違い、今度は押し込めず腕が宙に止まる。それどころか逆に彼女の腕から力が湧き上がり、グワッと襲い掛かってくるのが分かるのだ。さすがに焦って、思いっきり力を込めるのだが一進一退の展開、そこへ吉田氏から、力が抜けるように暗示をかけられたからたまらない。見事に負けてしまった。M女史は「普段なら途中で。”駄目だ”と思うところでも、全然負ける気がしなかった」と言う。恐らくその意識が、彼女の身体に眠る潜在力を引き出し力の出力そのものを変えてしまったのだろう。

「催眠でその人に眠る力を引き出すことはできます。ただそれはもともと″ある力を引き出す訳で、無い物は無理です。無理をすると身体を壊しますよ」と古田氏は言う。それにしても驚くべき効果だ。

今回の催眠体験を振り返って思うのは、心の働きだ。リラックスするにつれ吉田氏の言葉が心に入り、”そうかもしれないと、言葉に従う自分が生まれてくる。またその過程には少なからず心地よさ、つまり従うこと自体が不快ではないことが重要な要素に思える。また横で実際に催眠にかかった人を見るのも。”あ、こうなるのか”と思う意味でポイントだろう。

「気は心」「病は気から」とは昔から言うが、改めて心が身体をダイレクトに変えてしまうことを、今回の催眠体験を通して体感できた。もちろん催眠術でできることできないこと、はあるだろう。

しかし身体を使う、変えるという方法のひとつとして、催眠の可能性を感じた次第だ。