驚愕の催眠世界

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

「まず催眠術は大きく、他者催眠と自己催眠の二つに分かれます。一般的にテレビなどで見ることの多いのは他者催眠、催眠術師によってかけられるスタイルです。難しさということで言えば他者催眠の方が簡単。自己催眠は非常に難しいです」と吉田氏は言う。

自分をコントロールする自己催眠に比べ、他者をコントロールする・他者にコントロールされる他者催眠の方が簡単というのは意外なようだが、これには理由がある。

「催眠というのは意識を誘導する作業です。一見自分の意識をコントロールする方が簡単そうですが、自由な意識に自分で催眠の指標を作り維持するのは難しい。他者催眠の場合は外から指標を与えられて導かれるので意識をコントロールしやすい訳です」

なるほど、丁度”無心になろう”といくら頑張ってもなれないのと同じ感覚と言えるだろう。自分の意識ほどコントロールし難いものは無いのかもしれない。

「催眠で重要なのはラポール作りです。簡単に言えば催眠者と被験者の間の違和感を無くしてリラックスさせることですね。このラポール作りができれば催眠は70パーセント成功したと言えるでしょう」

しかし全ての人とそう都合良く信頼関係が築けるとは思えない。なかには催眠術に対して懐疑的・否定的な人もいるだろう。そうした人を相手にした場合、催眠術は無効なのだろうか?

「確かに誰でも間違えなくとは言えません。ただ私の場合元々武術への興味から催眠に入った人間ですから、究極的には敵対する人間に瞬間的に催眠をかけるのが目標なんです。ですから私の催眠は相手を選ばず、かなりの確率でかけられます」と吉田氏は言い切った。

流石は武術家・吉田氏ならではの発想だ。しかし具体的には一体どのように行うのだろうか?

「一番基本的なことは誰もが持つ無意識を意識に変えることです。一番具体的な例を上げるなら呼吸ですね。普段無意識で行っている呼吸を意識させて、息を吐きながら肩、腕、首、目と部分ごとに順番に身体の力を抜かせてリラックスさせる。大切なのはリラックスさせることです」

今回の取材にあたり編集部で3人の被験者を用意し、実際に吉田氏が催眠をかける場面を目の当たりにしたのだが、終始氏が3人をリラックスさせるべく、穏やかな口調と態度で3人に話しかけていたのが印象的だ。

特に面白かったのは被験者に催眠をかける際に、必ず被験者の背後から声をかけつつ、被験者の身体に手を触れ軽く動きを誘導する場面だった。

呼吸に意識を集中し、力を抜いているところに物理的な接触で微妙な揺らぎをつくり、肉体的な不安定感を作りつつ、言葉では「リラックスして、凄く気持ちがよい」と安定感を与えるのだ。この吉田氏の声が横で聞いていても、何か深いところに届く安心感を与える声なのだ。つまり、被験者にとっては肉体的なアンバランスを吉田氏の言葉で補う状態が出来上がっている訳だ。

後で被験者の女性に話を聞くと、催眠術をかけられている間は、目は開いていても焦点は合わず、吉田氏の声しか聞こえない状態だったという。ただ理性自体は喪失したわけではなく自分でも”あれ、(催眠術に)かかっているのかな?”という想いはあったという。彼女は吉田氏の指示通り後ろに倒れたのだがこの時も”あ、倒れちゃった”と想いつつも”まあいいか”と、積極的に抵抗する気が無くなっていたという。

一見すると馴れ合いの”ヤラセ”のようだが、同じく催眠をかけられた男性の被験者に話を聞いても、「不思議に抵抗する気がなくなって、(吉田氏の言葉に)”ああ、そうなんだ”と思ってしまう」と話しており、被験者の抵抗感自体を失わせてしまい、一種合意の主従関係をつくってしまうのが催眠状態と言えるようだ。

また催眠の影響は単に行動的な範囲に留まらず、感覚的な部分も含んでいる。それが明確になったのは被験者にレモンを食べさせた場面だ。吉田氏に「もの凄く甘い」という催眠を入れられた女性の被験者は輪切りのレモンを饗り、「本当に甘い!」と驚きの声を上げたのだ。

詳しくは後述の催眠体験ルポ(34~35頁)をお読みいただきたいが、単なる思いこみではなく、催眠で五感の一つ、味覚が変化したことが分かるだろう。

逆に催眠術で一番かかりにくいのは、疑り深い人ではなく、関心がない人だという。

「疑り深い人はこちらの言葉を聞いて何かを考えたり意識したりする訳で言葉が入りますが、無関心な人は言葉が入っていかない。そうなると難しいですね」

ここまででごく初歩的な催眠のメカニズムは理解することができた。端的に言えば、催眠とは心と意識に直接働きかけることで感覚を含む身体をコントロールすることと言える。

では氣はどうだろうか?