催眠が呼び覚ます力

≪月刊「秘伝」2007年5月号より転載≫

催眠術ってなに?

「催眠術の体験ルポをお願いします」と編集氏に言われたときに、正直不安になった。
まず催眠術と聞いてもテレビで見るくらいであまりピンとは来ない。それに筆者白身の疑り深い性格上”催眠術にはかからないのだろう″と思っていたからだ。ところが編集氏は、「大いに結構。できるだけ自然に、ヤラセなしでお願いします」と言ってくる。

そうなると頭をもたげてくるのは好奇心だ。一体催眠術とは何だろう?本当に自分にかかるのだろうか?いつもの秘伝の取材とは違った気分で当日を迎えた。

リラックスから始まった催眠

3月某日。今回の体験会には自分の他に編集部員のM女史とH氏の3人が参加し行われた。もちろん全員催眠術は初めてというメンバーだ。

体験に先立ちまずは吉田氏から簡単な催眠術のレクチャーが行われた。

「スムースに催眠術にかかるにはとにかくリラックスをすることが必要」との説明だが、これが難しい。いざとなると”何をされるんだろう”という恐怖から緊張してしまう。

そんな様子の我々に吉田氏は終始くつろいだ感じで話しながら、何気なくM女史を壁に向かって立たせた。その流れが「さあ、それではやりましょう」という感じではなく、ごく自然な雰囲気だったのが印象的だ。

運動支配と感覚支配

M女史との簡単なやり取りの後、次に筆者が呼ばれた。吉田氏は壁に向かって立った筆者の後ろに立ち、肩に手を置き軽く揺らしながら「力が抜けていくよ」と声をかけてくる。自分白身では半信半疑だったが、「後ろに倒れちゃいなさい、大丈夫だから」という言葉に従い”じゃあ、倒れてみようかな”という軽い気持ちでゆっくり倒れてみた。これでいいのだろうか? この時点で自分が催眠術にかかっているのかかかっていないのか、まったくわからない。

ところが後でこの時の様子を聞くと、筆者はゆっくり倒れたつもりだったのだが、かなりの勢いで倒れたようで「頭を打つのではないか?」と編集氏は心配したと言う。そう聞かされても信じられない。本人にはまったくその気がなかったのだ。

次に座った状態で同じことを行う。すると今度は立った状態では反応が鈍かったM女史が、いきなりバタンと倒れこんだ。「わっ、びっくりした」と思わず声を上げるM女史。彼女は途中から身体の力が抜け、目の焦点が合わなくなっているのが自覚できたという。幾つかのやり取りのあと、起き上がったM女史は、「凄くすっきりしています」と晴れやかな表情で笑う。吉田氏によると催眠にかかった状態は身体がリラックスするため、肩こりなどがほぐれるという。

次に吉田氏はアルミ缶の蓋を机の上に置き、「絶対に持ち上がらない」と声をかけた。半信半疑の表情で蓋に手を掛けるM女史だが、「本当に持ち上がらない!」と驚きの声を上げる。

“本当かな?”と筆者も試したのだが、確かに待ち上がらない。これが不思議な感覚で”持ち上げよう″と思っている自分と、”持ち上がらないんだな”と納得している自分がいるのだ。

氏によれば、これが催眠の初歩的な運動支配だという。

次に輪切りにしたレモンを目の前にして「これは酸っぱいということを忘れて、食べたときにものすごく甘く感じますよ」と暗示をかけてもらう。これにいちばん顕著に反応したのが、やはりM女史だった。「本当に甘い!」と驚きの声をあげる。催眠によって味覚という感覚すら変えられてしまったのだ。

潜在力が解放される!?

特に驚いたのがM女史と行った腕相撲だ。まず最初は普通に対戦、当然これは楽勝で一気に持ってゆける。次に古田氏が彼女に力が入るように暗示をかけて再試合。「さあ、どうだろう?」と手を握った瞬間から″違う″。実際に始めてみると一気に持ってゆけた先程とは違い、今度は押し込めず腕が宙に止まる。それどころか逆に彼女の腕から力が湧き上がり、グワッと襲い掛かってくるのが分かるのだ。さすがに焦って、思いっきり力を込めるのだが一進一退の展開、そこへ吉田氏から、力が抜けるように暗示をかけられたからたまらない。見事に負けてしまった。M女史は「普段なら途中で。”駄目だ”と思うところでも、全然負ける気がしなかった」と言う。恐らくその意識が、彼女の身体に眠る潜在力を引き出し力の出力そのものを変えてしまったのだろう。

「催眠でその人に眠る力を引き出すことはできます。ただそれはもともと″ある力を引き出す訳で、無い物は無理です。無理をすると身体を壊しますよ」と古田氏は言う。それにしても驚くべき効果だ。

今回の催眠体験を振り返って思うのは、心の働きだ。リラックスするにつれ吉田氏の言葉が心に入り、”そうかもしれないと、言葉に従う自分が生まれてくる。またその過程には少なからず心地よさ、つまり従うこと自体が不快ではないことが重要な要素に思える。また横で実際に催眠にかかった人を見るのも。”あ、こうなるのか”と思う意味でポイントだろう。

「気は心」「病は気から」とは昔から言うが、改めて心が身体をダイレクトに変えてしまうことを、今回の催眠体験を通して体感できた。もちろん催眠術でできることできないこと、はあるだろう。

しかし身体を使う、変えるという方法のひとつとして、催眠の可能性を感じた次第だ。